無添加パンが結ぶ聖夜の小さな奇跡
クリスマスの朝に欠かせない特別なパン
12月に入ると、街角にはクリスマスソングが溢れ、夜空を彩るイルミネーションがどこか慌ただしい日常をほんのりと優雅に見せてくれる。今年も残りわずか──そんな季節になると、私たちはなぜか特別なものを味わいたくなる。それは決して豪華絢爛なディナーでなくてもいい。ちょっとした「いつもと違うおいしさ」に、心がふわりと弾むから不思議だ。
この時期、私の知人であるA子さん(30代、子育て中のワーキングマザー)は、ある「無添加パン」を楽しみにしている。彼女は毎日ハンドクリームを塗り、仕事用のスマートフォンと子どもの保育園からの連絡用スマホを使い分けるスーパーママだ。仕事、家事、子育て──すべてに手を抜かない。でも、どんなに頑張っても年末は慌ただしい。残業、年賀状の準備、大掃除、そして子どもはもうすぐクリスマス会の出し物があるとかでソワソワ。日々がバタバタと過ぎていく中、A子さんは「今年は家族にとびきりおいしいパンを用意して、クリスマスの朝を格別なひとときにしたい」と考えたのだ。
忙しさの中で見つけた「無添加」パン
とはいえ、近所のパン屋さんは早朝から行列だったり、人気の高級ベーカリーは日中仕事で忙しいA子さんにはなかなかハードルが高い。そこでA子さんが思いついたのが「通販」である。今や「お取り寄せグルメ」はスマホさえあれば何でも手に入る時代。彼女は深夜、自宅のキッチンテーブルでスマホを片手に検索を始めた。
「無添加パン クリスマス限定」「子ども 人気 美味しい 安全」
そんなキーワードを打ち込むと、すぐさま魅力的な写真がディスプレイに現れた。それは白くて小さな雪玉のような丸パンや、ドライフルーツがぎっしり詰まった特別なホリデーブレッド。なかでも、添加物不使用で小麦の香りを最大限に生かし、子どもにも安心して食べさせられるという評判のベーカリーが期間限定の「クリスマス特別セット」を通販受付中とある。口コミ欄には「子どもが初めてパンに喜んだ!」「小麦本来の甘みが感じられ、体がよろこぶ味」「人気のわけがわかった」などの賛辞が並ぶ。
A子さんは迷わずカートへ入れようとしたが、そこには残り在庫「わずか」の表示。年末前で注文が殺到しているらしい。A子さんはドキドキしながら画面を操作し、支払いを済ませ、なんとか注文完了のメールを受け取った。ほっと息をつき、その日は遅くまで溜まった仕事の報告書を仕上げた後、深夜にベッドへ滑り込んだ。そのとき、彼女は小さな胸の高鳴りを感じた。「あのパンが届いたら、きっと子どもが喜ぶだろうな」と。
届かない不安、そして奇跡のチャイム
ところが、クリスマス直前の週になると、何やら不穏な気配が漂いはじめる。子どもが保育園から帰宅するなり「ちょっと喉が痛い」と言い出した。年末の風邪は厄介だ。A子さんは早めに薬を飲ませ、食事も消化に良いものを用意する。パンが届くまでに元気になってくれればいいが――。さらに運送会社から「配送が混雑しているため、遅れる可能性がある」というメールまで飛び込んでくる。「まさか間に合わないなんてことはないわよね?」A子さんは不安に揺れる。
クリスマスイブの夜、A子さんは子どもを早めに寝かしつける。まだ本調子ではないが、熱は下がった様子。「明日の朝、あのパンでサプライズしてあげたい」。彼女は飾り付けた小さなツリーを見つめながら、心の中で祈る。スマホで配送状況を確認するが、追跡番号の情報は更新されない。もしかして、今年のクリスマスは普通の朝食で終わってしまうのか。せっかく準備したホットミルクやハチミツを添えた特別なテーブルセッティングも、ただの空振りに終わるのだろうか。
不安な気持ちのまま日付が変わろうとした頃、玄関チャイムが小さく鳴った。「こんな時間に?」A子さんがドアを開けると、そこには疲れた様子の配達員が寒そうに立っていた。「混雑で遅くなりましたが、ようやく配達できました!」と、手にはしっかりと箱が抱えられている。A子さんは思わず「ありがとうございます!」と声を張り上げ、嬉しさに目頭が熱くなった。「間に合った……!」
彼女は家族が寝静まったダイニングテーブルで、箱をそっと開けてみる。中には無添加パンがふわりと詰め込まれている。その一つ一つが丁寧な手仕事を思わせる、美しい佇まい。小麦と酵母が紡ぎ出す優しい香りが広がり、A子さんは、これを明日の朝、子どもと一緒に味わう光景を思い浮かべる。「ああ、きっとすごく喜ぶだろうな」と小声でつぶやき、そっと箱を閉じた。
子どもの笑顔が紡ぐ家族の物語
そしてクリスマスの朝。曇りがちだった空には薄日の差し込む淡い光。子どもが寝ぼけ眼でリビングにやってくると、食卓の上には無添加パン、ホットミルク、そして赤いリボンが添えられた小さなプレゼントが並んでいた。
「わあ、いい匂い!」と子どもが瞳を輝かせる。A子さんはナイフでパンをカットする。それはふんわりと弾力があり、中はしっとり、口に運べば香り高く、甘さは小麦そのもの。「どうかな?」と問いかけると、子どもは笑顔で「おいしい!」と一言。体調を崩していたからこそ、この味が余計に染み渡るようだ。彼女は心の底から安心し、ささやかながら特別なこの朝に幸福を感じる。
その時、子どもが少し照れた顔で、「ママ、これ」と、一枚の紙を差し出した。そこには、拙い字で「いつもありがとう ママだいすき」と書かれている。
A子さんは驚き、そして、目頭が熱くなる。「こちらこそ、ありがとう。君の笑顔を見るために、ママは何度だってがんばれるんだよ」と心の中でつぶやく。
子どもと思い出を紡ぐ、無添加パンの物語
クリスマスには派手なイルミネーションや豪華な食事がなくても、ほんのひと切れの「無添加パン」から始まる奇跡がある。それは思いやりと優しさを詰め込んだ、素朴だけれど豊かな時間。通販でお取り寄せした、この人気の無添加パンは、素材本来のおいしさだけでなく、愛情や家族の思い出という「見えない栄養」まで運んできてくれたように感じる。
スマホ一つで手に入る便利な時代だからこそ、そんな小さな奇跡に私たちは気づきにくくなっているのかもしれない。それでも、ネットを介して遠くの職人が焼いたパンが、わたしたちの食卓で家族の笑顔を引き出し、新たな物語を紡ぐ。
小さな優しさや気遣いが、家族の思い出を優しく包み込む。手間をかけられない忙しい女性たちでも、わずかな工夫とネットショッピングの力で、とっておきの朝を演出できる。