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眠れぬ夜の「北海道無添加パン紀行」というミステリー

生食パン

 時計が夜の二時をまわった。窓の外はしんしんと静まりかえり、街灯のオレンジ色が薄くにじむ。そんな時間に、机に山積みされた書類の横で、僕の視線はスマホの画面を泳いでいた。実は、いま無性に「パン」が食べたい気分なのだ。なぜって? さっきまで資料整理に没頭していて、思考回路がまるでカラカラに乾いた雑巾みたいだから。頭をまわす燃料が欲しい。とはいえ、コンビニへ行くのも億劫だし、どうせなら“ちょっと特別なパン”を味わってみたい。  

 そんな思いで画面をスクロールしていたら、目に飛び込んできたキーワードがある。「無添加パン」「天然酵母」「北海道産小麦粉」——何やらそそる単語が並んでいるではないか。僕は思わず背筋を伸ばし、スマホに顔を近づけた。真夜中の書斎と、スマホ越しのお取り寄せサイトが、予想外にもしっくりくる。静けさの中で独り、“小さな贅沢”を見つけたようなドキドキ感。  

 大学で考古学を専攻していた頃から、僕は“手間と時間をかけたもの”に心惹かれるタチだった。なんというか、古代遺跡を発掘するように、ひとつひとつ手作業で仕上げられたものにロマンを感じてしまう。だから、無添加パンや天然酵母といった職人のこだわりが詰まった言葉は、僕にとっては遺物調査に近い興味対象。しかも、北海道産小麦粉を使っているというから、ますます謎が深まる。広大な北の大地で育った小麦が、いったいどんな風味を孕んでいるのだろう。  

 もちろん、これだけでは単なる“健康志向”のパン、というイメージしかない人もいるかもしれない。でも、説明を読んでいると、どうやらこのパンは保存料や人工的な添加物を使わず、天然酵母の力を借りてじっくり発酵させているらしい。なんてことだろう、まるで僕が土を掘り進めて遺跡を丁寧に掘り出す作業に似ている。時間をかけることで、素材の奥底にある真の価値を引き出す。そんな作り手のストーリーに思いを馳せると、急にパンの世界がロマンチックに見えてくるから不思議だ。  

 さらに興味深いのは、そのお取り寄せサイトのレビュー欄。「食感がもちもちしているのに、しっかり小麦の力強さを感じる」「北海道らしい風味が鼻を抜けていく」「焼き立ての香りが想像以上で、目を閉じたら牧草地が浮かんだ」などと書かれている。僕は思わず吹き出しそうになった。「目を閉じたら牧草地」だなんて、ずいぶん詩的じゃないか。だけど、ひょっとしたら本当にそう感じられるくらい美味しいのかもしれない。

 そこで僕は、サイト内をさらに見て回ることにした。天然酵母のパンだけでなく、さまざまな種類の北海道産小麦粉で焼き上げたパンが出てくる。夜中だというのに、食欲というヤツは容赦なく襲いかかるものだ。今すぐ食べられるわけでもないのに、注文ボタンを押す指先が妙に震える。心のどこかで「こんな夜更けにパンを買うなんて正気か?」と突っ込みが入るが、それを振り払うほどの誘惑が勝っている。  

 いったい、どれほど美味しいのだろう。僕はレビューをさらに遡って読んでみる。「温めるだけで焼きたての香りが戻る」「子どもが『また食べたい!』とせがむほどお気に入り」。子どもの感想には嘘がないというのが、僕の持論だ。だからこそ、このパンは安心して美味しくいただけるのだろう。無添加パンというだけあって、賞味期限はそれほど長くないかもしれないけれど、逆に「余計なものが入っていない証拠」とも受け取れる。そして通販で冷凍配送してくれるなら、欲しい分だけを自分のペースで楽しめる。  

 僕は注文画面に進み、配送先や支払い方法を指定する。ふと、いつもはこの時間帯にネットショッピングなんてしないけれど、今はなんとなく心が満たされている。旅先の小さなパン屋さんを深夜に訪れたような、そんな不思議な感覚があるのだ。  

 翌日の昼下がり。仕事に一区切りついたところで、配送予定のメールが届く。どうやら数日後には、憧れの天然酵母パンが家のドアをノックしてくれるらしい。深夜に生まれた小さな冒険心が、どんな味と香りを連れてきてくれるのか。考えるだけでちょっと浮き足立つ。まるで遠方の友だちが久しぶりに遊びに来るような、懐かしさとワクワク感が混ざり合った気持ちだ。  

 実は、僕の暮らしはいつも同じルーティンの繰り返しで、刺激に乏しいと感じることも多い。そんな中で、お取り寄せパンという非日常が、ささやかなハプニングをもたらしてくれるのかもしれない。しかもそれが、手間と時間をかけた「無添加パン」と「天然酵母」という形なら、なおさらだ。北海道産小麦粉というキーワードも、僕の頭の中では「広大な大地」と「醍醐味」がごちゃまぜになって、未知の道をひた走っている。  

 もし、あなたも夜中に「ちょっといいパンを食べたいな」と思うときがあれば、ぜひスマホ片手にこの未知なる世界へ足を踏み入れてみるといい。画面の先には、職人の情熱と自然の力が育んだ一品が待っているかもしれない。翌朝の出勤前にドアを開けたら、北海道の風がちらりと覗いていた——なんて、ちょっと素敵じゃないか。  

 そんなわけで、僕は今夜も書斎で論文を睨みつつ、“あのパン”が届く日を指折り数える。言葉にできないほど美味しいものがあるなら、多少の衝動買いだって罪にはならないはずだ。深夜の静寂は、いつでも新しい発見を連れてくる。さて、到着予定日までまだ数日。もう少しだけ、僕の食欲と想像力は、夜の闇を旅し続けることになりそうだ。

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